池 成姫

池 成姫

設立 2010年11月10日
事業内容
    • バッグの企画・生産・卸・販売および知的財産管理
会社HP http://coaroo.info/

自分の本当にやりたいことが分からないまま40年が過ぎる

日本に初めて来たのは、24歳のときです。
来日するまでは韓国の大学に通っており、
就職活動をしながら将来を模索していました。

そうした中、日本語を習う機会があり
「センスがあるから本場・日本に行ってはどうか」と勧められたのです。
言われるままに日本へ来て、2年間日本語を学び、26歳で日本の大学へ進学しました。
日本の大学では留学生新聞の記者をやったり、
たくさんの仲間もできてとても楽しい時期を過ごしましたね。

小さい頃から非常に厳しく育てられ、
レベルの高い大学や大きな会社に入るために、勉強ばかりしてきました。
そのため、私自身は何が好きなのかとか、何がしたいのかなど、
ずっと分からなかったのです。

いつも人に言われたり、勧められたりしながら、
目の前のことに一生懸命になり、
あまり自分で考えることをしてこなかったように思います。

実は本当の目標が分からないことが唯一の悩みで、
それは会社を起業する40歳まで続きました。

アイデアを閃いた時は、まるで雷が落ちたようだった

大学を卒業後、日本で少し働いてキャリアを積み、いずれは韓国に帰るつもりでいました。
ところが、入社した会社の代表と縁あって結婚。
そのまま日本にいることになりました。

結婚当初は、主人の仕事を一緒にやっていました。
しかし子どもが生まれると、そうはいかなくなります。
自宅でできることをしようと、
韓国人の友人と韓国語教室を開いたり、翻訳など本を書いたり、
家でできる仕事にシフトしました。

子育ては想像以上に大変で、仕事とはまた別次元の苦労がありましたね。

不便さを乗り越えるために、何かいいアイデアがないだろうか。

そう考えるなかで生まれたのが、
現在のビジネスの核となる「コアルーバッグ」です。
日本の「たすき」や「おんぶ紐」をヒントに、バッグを試作しました。
そうすると、娘が通う幼稚園で評判を頂くようになったのです。

思いついたときの閃きは、
まるで雷が落ちたような衝撃がありました。
そのときにイメージしたビジネスは、今も崩れていません。
特許翻訳の仕事に携わったのを機に、
アイデアをビジネスに生かす方法を考えてきましたが、
やっと「これはいける!」というものに巡り合えたのです。

物事を始めるのは「よそ者・ばか者・若者」であることが重要

コアルーバックは、ベルト一本で、ショルダーやリュック、前掛けスタイルなど、
用途に合わせて5通りのスタイルに変身できる鞄です。
2009年に特許取得、2010年に商標登録をしました。

ビジネスとして始めようと思ったとき、
初めはライセンス料をもらえればと思って企業に売り込みに行きました。
しかし、日本の会社はなかなか門を開いてくれず、
また、私が持って行ったサンプルや企画書も、
今思えば不十分で、上手くいきませんでしたね。

諦めかけていたときに、発明学会という会で、
ある企業から契約のオファーを頂きました。
ただ残念ながら、条件が揃わず、
その頃から自分でやる方法を考え始めます。

起業のきっかけは、
コアルーバッグのサンプルを出店した展示会で
中小企業振興公社の方に出会ったときのこと。

「取引するためには、会社を作ったほうがよい」とアドバイスされ、
決意しました。

あるセミナーで、
「物事を始めるには、『よそ者・ばか者・若者』がいないと何も生まれない」
という言葉を聞いたのも何かの縁だったのでしょう。

「自分にはぴったりだ!」と、
何も分からないながらも、会社を作りました。

起業直後に大震災が発生。一時、どん底を味わうことに

2010年に会社を設立後、
すぐに東日本大震災が発生しました。

それまで商品に関心を持ってくれていた人たちが、
一気に目の前から消えてしまいました。
まるで時間が止まってしまったような感覚に陥ってしまったのです。

中小企業の社長が自殺をするというニュースが、
もう他人事ではないような状態。

どん底でしたが、ある人からこんな言葉を貰いました。
「いざというときに役立つ防災グッズとして使える」。
それまで気付かなかったコアルーバッグの一面を確認できました。

ほかにも確信を持てる意見が次々に寄せられました。
そのことから、「社会に必要とされる商品を出し続けたい」と立ち直ることができました。

2012年9月に、
中小企業振興公社主催の「ニューマーケット開拓支援事業」の対象商品に合格し、
「TASKものづくり大賞」は、2010年から3年連続で受賞。
2013年5月には韓国世界発明大会で優秀賞を受賞しました。
新聞やテレビなどのマスコミにも、
業界の常識を覆した次世代ショルダーとして取り上げられました。

家業レベルではなく、社会に貢献する会社を目指したい

会社設立から3年以上が経ちますが、
当初は組織を作ってビジネスをすることと、家業との区別がついていませんでした。

組織としてのビジネス展開は、
取引先や消費者など多くのの会社・人と関わります。
商品・サービスに対する責任は、
「組織」のトップである私が負わなければなりません。

大変ですが、私の場合は家業レベルではなくビジネスとして、
社会の中で貢献できる企業を目指したいと考えるようになりました。

会社は、社長のものではなく「みんなのもの」です。
ビジネスの計画を立てて、売上を作り、そこから税金を納め、社員を雇用する。
福祉を回すためには企業の存在が不可欠で、
社長はそれだけの責任を負っています。

その仕組みが最近、やっと分かってきました。
子どもたちに何を残すべきなのか。
その視点で自分を見つめた時、
組織としてビジネスを動かしていくことで、
親として誇りを持てる生き方ができるのではないか。

そんなふうに思ったのです。

自分も社長だと思って仕事をすべき

これまで、外部の優秀なデザイナーたちや協力会社にお手伝いして頂きながら
一人で進めてきましたが、
この春から新しい人材を迎える予定です。

ベンチャー企業を目指す学生の皆さんには
「大企業に行けなかったからベンチャーに行く」という負け犬的な発想か、
それともそうではないのか。
起業を目指す理由を、きちんと確認してほしいですね。

ベンチャー企業の社長は、社長自身も「ベンチャー」ですから、
創業期ほど強い精神力を持つ人を必要としています。

社長のお尻を叩くくらい、一人一人に社長並の精神が必要です。
仕事は自分で取ってくる気概が求められます。

大変かもしれませんが、
でもその分、やりがいもあります。
社長になりたいという人には、
給料を貰いながら、準備期間を過ごす絶好の機会になるでしょう。

自分のビジョンは、自分のやり方で達成する。
それがベンチャーの醍醐味です。