代表取締役社長 貞末 タミ子


代表取締役社長 貞末 タミ子

設立 1993年11月7日
事業内容
    • 男性用、女性用シャツ専門店
    • オーダーメイドシャツの販売
会社HP http://www.shirt.co.jp/

憧れからの就職

ファッション誌をよく読み、バレーボールを楽しむ女子高生だった私は、
卒業後、すぐに就職するのも楽しくなさそうだし、お茶の水の専門学校へと進みました。
ちょっと出かけてフランス語の勉強などをしたいと考えました。
その後、当時有名な会社であったヴァンヂャケットに就職しました。
服飾だけでなくライフスタイルを発信していた会社であり、
私が就職した頃は日本の若者の服飾を一変するような影響を与えていて、
多くの支持を集める人気会社でしたね。

入社の理由は、私自身が会社のあった青山という場所に憧れを持っていた事、
そして若者に人気の企業であったということが挙げられます。
その為、特に働くことに意欲があったというよりは、何となく楽しそうだと思った事が入社の動機です。
ただ、その考えには当時の女性の生き方という物も少なからず影響していて、
今のように働く事が当たり前といった風潮ではなかったものですから、
そこまで本気で就職を考えていなくてもおかしくはなかったのです。

仕事内容もお茶汲みが基本だったのですが、
会社にはくろすとしゆきさんがいらっしゃって、
そばにいた私は毎日緊張していたのを覚えています。

専業主婦から経営者へ

その後は会社を2年と少しで退職し結婚しました。
当時、夫は(株)VAN Jacketの大阪支社勤務でしたので、
親類も友達もいない大阪へ行きました。
そこから22年、専業主婦としての結婚生活が始まります。
周りに頼れる人が全くいない子育てはそれなりにハードでしたが、
その後東京に戻った事もあり、なんとか過ごせていたなといった感覚ですね。

当時、夫の世代はいわゆる企業戦士と呼ばれ、
家庭を顧みずひたすら働く事が普通でした。
しかし、今でもその考えを否定する気は私には無く、
それが無ければ今の日本の姿はありえなかったのではないかと考えています。
留守は留守でいいなとも思っていましたので(笑)
会社を守る事、家庭を守る事、どちらも楽しめれば苦にならないものです。

そんなある日私が元社員であり、夫が務めていたVANが倒産。
夫は同業の会社に乞われ役員として勤務しました。
住宅ローンや子供の学費が大変でしたが、
その後、夫が温めていたビジネスを始めました。
ローンなどの借金も少なくない状況でしたが、
「これなら必ず成功する」
そんな確信があったからこそ始めることができたのです。
始めるときは軽いもので
「テナント募集の張り紙があったけどやってみる?」なんて夫の言葉に
「やってみるわ!」と返しました。
そんな、軽い会話からスタートしたのを覚えています。

家庭と仕事の両立

このビジネスは成功するという確信はありましたが、
一番懸念していたことは子供たちの事。
つまり、家庭の事でした。
脱サラが叶わない以上、夫は仕事から離れられず、
新しい店の協力も頼める状況ではありません。
その為、私が家庭と新しい店の両方を見なくてはならなかったのです。
家庭を見る上で、地元鎌倉で店を開けたということは大きな事でした。
一番下の子供がその時はまだ高校生で、
家事をするためにも11時に開店して6時には店を閉じると自分で決めて運営しました。

そんな家庭との両立から始めた店だったのですが、
私がVANで働いていた時には物を売る経験などしていなかったので、
分からないことだらけでした。
物を売ることを知らなかった私は、分からない事をお客様に尋ねたりして
知識を蓄えていったのです。
お客様が快く色々なことを教えてくださって、
そのおかげで今のような形へとなる事が出来ました。

その時から、私たちは事業計画などに頼る形ではなく、
今できることを一生懸命に行うという形でビジネスを続けています。
目標を立てるというよりは、条件が揃った時を見て
その時その時に見合った動きをするといったところでしょうか。

忘れてはならないこと、ホスピタリティの心

私が店を始めてから一貫して気を付けていることは、「ホスピタリティ」です。
商品が良い事、そしてお客様に喜ばれる店員のおもてなしという
二つが揃っていなくてはならないと考えて働いてきました。
先程も言った通り私は長い間消費者でしたので、
消費者目線ではどのような接客態度が喜ばれるかと考え、実践する事が出来ました。
例えば「くっつかない」といったことですね。
店員がお客様に「何かお探しですか?」と言ってくっついているのは
消費者から見たら絶対に良くない事だと思いますね。
このような私たちが大切にしていたホスピタリティは、
今よりも経営が厳しい状態だった10年間を支えてくれた
アルバイトの方々から現在まで脈々と受け継がれています。

後は消費者目線から考えれば、
価格は店内すべてのシャツ(一部除外)が同じですから、
その他は内装をセンスよくするということでした。
初めは資金などの理由により、この様な理想を追うことは難しい状況でした。
しかし、スタッフ一同、自分たちの商品に誇りを持っているという事が
今の会社を作り上げ、成長させた一番大きな要因です。

社員と育つ

私は、「社員を育てる」というよりも「社員と育ちたい」という想いを持っています。
専業主婦として暮らしてきていたので、会社を運営するなどという事は
ほぼ未経験なわけです。
その様な社会での未経験さをどの様にしたら埋められるのだろうという事を考え、
アルバイトの方や社員にも色々な事を聞きながら今に至りました。

元々、何か難しいことをやり遂げて社長になったという訳ではなかったものですから、
私自身の肩書きは社長であっても、普通の主婦であるという意識が常にあるのです。
それはつまり、周りのスタッフと共になければならないという意識を持つことなのでしょう。

今でこそ、おかげさまで様々な場所に店舗を構えられるようになりましたが、
規模が大きくなったとしても、スタッフと一緒になって
全ての質を落とさぬようにと常に考えています。
しかし、どれだけ考えてみてもスタッフの質を維持するための
明確な方法などはありません。
ただ、感謝の気持ちを常に持とうとするといった
「ホスピタリティ」を忘れないようにする事だけが大切なのだと思います。

若い女性と学生へのメッセージ

若い女性経営者と呼ばれている方に対しては、
ただただ凄いという想いしかありませんね。
私はある程度子育てが終わってから、今の経営に移りました。
しかし、女性経営者の中には完全に両立している方も少なくないようなので、
尊敬の念を抱くわけです。

今の若い女性の中で再び専業主婦志向が強くなっているという話を聞きますが、
それには少し思うところがあります。
生活が豊かになった今、一人分の稼ぎだけで生活していく事が
厳しいのではないでしょうか。
今の時代、自分にとって欲しい物、
またはやりたい事があるならば働かざるを得ないのです。
その為若い女性は自分磨きをして自立をするしかないのかな、と思います。
会社の範囲の中で自分を合わせなければならないという事は、
子育てをしている女性にとってはハードですから。

「若者よ、大志を抱け」という言葉を、
もう一度若い人たちに意識してもらいたいですね。
海外に出ることが多くなり、外の国から見て
本当に日本は尊敬されているという事を実感します。
もう少し日本に誇りをもって、日本の為に世界に出てほしいなと思いますね。
豊かになった日本ではありますが、
世界を知り、勇気を持って行動して頂きたい。これが願いです。