代表取締役社長 兼CEO 林 茂


代表取締役社長 兼 CEO 林 茂

設立 2007年12月12日
事業内容
  • イタリア食材輸入販売
  • イタリア食材販売
  • 飲食店経営
  • 食セミナー、スクールの運営
会社HP http://www.eataly.co.jp/

これからの働き方を見つけた海外経験

学生時代から海外に興味を持っていて、大学三年生になるときに
カルフォルニアに1ヶ月、それから卒業間際にロンドンに3ヶ月半行きました。
海外に行ってみて、外から日本という国や、働くということを見てみると、
「つまらないことに時間やエネルギーを使っている」と思うようになりました。
価値観の違いを感じたのです。

就職するときには、とにかく業界1位の企業にこだわりました。
というのも、トップメーカーであれば、ある程度余裕があって、
自由にいろいろな経験をさせてもらえると思ったからです。
思いきったことや、新しいことができる機会がほしかったのです。
海外に行った経験から、漠然とですが、これからはみんなと同じことをするのではなく、
自分の頭で考える能力が評価される時代がくると考えていました。
きちんとした会社に勤めていれば、そのための経験が積めると思ったのです。
実はその頃からすでに、自分はサラリーマンの枠の中で仕事をしていくのは
向いていないと思い、冷静に将来を見据えていました。

イタリアで苦戦した和風レストランの経営

大学を出てから、サントリーで働き始めました。
サントリーで海外レストランの話があり、特別英語ができたわけではないのですが、
海外でビジネスをするのは面白そうという気持ちから、とにかく名乗りをあげました。

まず始めは、イタリアミラノで和食の高級レストランのマネジメントを4年間しました。
その頃、結婚したばかりだったのですが、家にはほとんど寝に帰るだけでした。
夜中の2時に帰ってきて、翌朝9時には出かける生活で、
最初の半年で、なんと7、8kg痩せました。
イタリア語がわからず、レストランの経営もわからず、
イタリア人のこともわからず、本当に大変でした。
ただ、わからないことを覚えるのが面白かったので、必死で努力をしました。
自分が覚えるしかないと思い、マネジメントだけでなく会計も短い時間で学びました。

日本人初のソムリエ

その後、今度はイタリアの事務所を任されるようになり、
イタリアでの暮らしも5年目に入りました。

その頃から、コツコツと自分でワインの勉強を始めたのです。
休日にワイナリーを見に行ったり、それを自分で売ってみたり、ノートを作って覚えたり。
せっかくイタリアで仕事ができるのだから、
何かを身につけないともったいないと考えたからです。
食事に行くときにもテイスティングシートを持ち歩き、
テーブルのすみで記入していました。
テイスティングシートには、ワインの見た目や香り、味わい、
料理との相性などを細かく記入していきます。

そしてソムリエ学校にも通い始め、95年に日本人で初めてソムリエの資格を取りました。
会社からも表彰されました。
ワインについて学びながら、ワインについての本を書き始めたのもこの頃。
自分が勉強しようにも、良い本がなかったのです。
他にも、エッセイやバールの本などを書きました。

普通のサラリーマンでは面白くない!

そもそもワインの勉強を始めたのは、せっかくイタリアに行って
ただ働いているだけだと流されてしまうと思ったからです。
将来的には起業して、自由に仕事をしていきたいと思っていたので、
そのためにただ会社の仕事をしているだけではダメだと考えていました。
海外で経験を積んでも、日本に戻ったら普通のサラリーマン、
それでは面白くなかったのです。

ワインの勉強は、最初は趣味でしたが、
会社のお金をもらって勉強させてもらっている、
そういう機会をもらっていると思っていました。
そして充分会社に恩返しができたと思ったところで、会社を辞めて
自分のやりたいことをやろうと思ったのです。

始めは、コンサルティング会社を作り、イタリアのワインを扱っていました。
5年前に、Eatalyが日本人のコンサルタントを探していたので、引き受けました。
どうせやるなら雇われるよりも自分の店にしたかったので、
自分のお金を入れて株主になりました。

日本にイタリアの本物の味を

Eatalyは、トリノ本店の「よりよい生活を求めて」というコンセプトを踏襲しています。
もっと健康に自然に生きたい、きっちり時間をとってゆっくり食事をしたい、
というスローフードの考え方です。
日本でイタリアの食文化は、ブームとしてではなく定着しつつあります。
パスタやピッツァは家庭にも入り込んでいます。
しかしそれがイタリアの本物の味かというと、そうではないのです。
例えば、ナポリタンにケチャップを使ったり、ピッツァにタバスコをかけたりするのは、
戦後にアメリカ経由で入ってきた文化です。
イタリアの文化とは違います。
だからこそ、本物のイタリアの味を知ってもらうために、
安心して食べられる食ブランドとして、Eatalyがあります。

本物の味を家庭に定着させていくためには、
まずは各地に小さいお店を作っていくことが大切です。
東京グランスタ店がその一つです。
そしてカフェやレストランを展開していくこと、
店舗でいうと日本橋三越店、横浜ポルタ店など。
去年の秋には阪急うめだ店もオープンしました。
そこで本物のハムやチーズを扱い、広げていくのです。
今後は、日本だけではなく、韓国、ドバイ、イスタンブールにも
出店を計画しています。

一度ちゃんとしたものを食べると、二度と安いだけの食べ物には戻れません。
実際に食べてもらい、日本にいながらイタリアの本物を知ることができる。
『今まで味わえなかった本場イタリアの味』をもっと身近で知ってほしい、
というのが私の願いです。

学生へのメッセージ

自分は本当は何がしたいのか、はっきりしない人が多いと思いますが、
長い目で見て考えてほしいです。

小さくてもいいから目標を作ること。
そして一つでもいいから、何かをやったと思える経験が大事だと思います。
それがきっかけになって、いろいろ開けてくるのです。
私の場合は、ワインについて学んだことで道が開けていきました。

就職活動で面接を受けに行って、「なんでもやります!」という姿勢もいいけれど、
何か一つ、これという意思表示をしてほしいと思います。
「海外で仕事がしたい」でも、「社長になりたい」でも、
大それたことでもいいから、やりたいことを言えるということが必要ではないでしょうか。