代表取締役社長 久保田裕也
設立 | 2004年12月28日 |
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事業内容 |
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会社HP | http://www.otobank.co.jp/ |
「フツーの学生」から「インターン無双」に
大学にいたころは、ほんとうにごくごく普通の学生でした。
社会やビジネスも何も知らず、イメージだけで考えていました。
なので、ありがちなのですが、テレビが好きだったので、テレビマンになりたいと思っていたんです。
しかも大学3年生の夏くらいまでは、就職活動をしなくてもなぜか「ギョーカイ」に入れるんじゃないかと思っていました。
何も知らなかったんです。今考えると恥ずかしいですね。
今は、ネットサービスの会社を経営しているわけですが、当時は、ネットも、サークルの掲示板を見るためくらい。
ユーザとしてもあまり活用してなかったです。
そうこうしているうちに、普段はスーツを着ないような友人がスーツ姿でキャンパス内にいたので
「どうしたんだ」と訊ねたところ、インターンの募集があったから受けるのだということを聞きました。
私の学校では国会議員のインターンの募集が結構あったので、
「こいつって、政治に興味があったけ?」と思って、聞いたところ、一般企業のインターンらしい。
「へー、そんなのもあるのだ」と思って、実際にそこから聞いてみるといくつもの一般企業がインターンを募集していて、
とても驚きました。
じゃあ、志望業界のインターンをしようと思ったのですが、
この時テレビ局は選考していなかったので、
テレビ局に近いと教えてもらったので広告代理店のインターン募集を受けたところ、合格を頂きました。
今、振り替えると、恐ろしい話ですが(苦笑)
そのまま自分の中では広告代理店の社員になるのかなと漠然と思っていました。ここでまた転機が訪れます。
たまたまであった、あるベンチャー企業の副社長の方に、
“世の中の全体像がわかっていないし、代理店がどんなことをするのかもほんの一部しか知らないのでは”
ということを指摘されました。
自分なり、色々と世の中についていろいろ話を聞き、自分でも調べたりした感覚だけでは、
この方が私を見て何を指摘したかったのか完全に理解するまで至らなかったのですが、
一面正しいなと感じたのと今までの自分を否定されたような悔しさがあったので、
「だったら貴社で働かせてください」と頼んでみたんです。
本当にたまたまだったのですが、ここで、ネットメディアビジネスの別の局面が見えてきました。
そこで働くうちに、また、違うところに関心が拡がりました。
その企業の方々の出身だったということもあって、自然と外資系企業へと目を向けるようになりました。
働いて色々もがいている中で、自分をもっと鍛えたいという意識が出てきたんです。
彼らは外資系企業で鍛えられたようなので、ともかく、鍛えられる場所に行ってみたくなったんですね。
「合わない」企業への就職。「これでいいのか」と悩む
そこから、今度は、外資系企業に就職活動の中心を移します。
就職活動において多くの学生さんがそうだと思うんですが、
面接をパスするために付け焼刃で色々なことを喋ると思うんです。
私も外資系の面接を受けて、「M&Aに興味がありまして」とか言ってました。
しかし、実際はM&Aという字面はわかっていても、
実際具体的にどういう仕事をするのか、その現場で起こることに関しては全くわかっていませんでした。
そうやって選考を続けていくうちに、ラッキーなことにいくつかオファーを頂いて、
インターンとして実際に会社で働いてみるという機会も結構あったのですが、
自分にとって、仕事で合う、合わないかが自分にとって大きいか、ということを実感しました。
でも、周りは「すごい!」と言ってくれるし、親も喜んでいたので、
「合うかわからないけども、すごいことならそのまま入っちゃおう」と思いました。
そうは思いつつも、心の中では「これでいいのだろうか」ということはずっと感じ続けていました。
そんな中でも、幾つか兆候がありました。
人気企業から内定を取るたびに、かつてのインターン先の企業の人に、
「えー、何で、そこ受けているの。まったく向いてないと思う」と言われ続けたんですよ。
「難関を突破したはずなのに、なんでこんなふうに言われるんだろう」と反感を覚えつつも、
自分でも、「就活向けに”創った”自分が採用されてしまったけど、本当に向いているんだろうか」
ずっと心の片隅で自問自答してました。
そういうふうに色々と迷っていた2005年の春に、
このオトバンクという会社の創業者の上田(現在は会長)に久しぶりに出会うことになるのです。
「冷やかし」から、「なりたい自分」に
創業者の上田とは、大学のゼミが同じでした。
もともと上田は教育を政治から変えていくというのをやっていた人間で、
NPOを立ち上げているのは知っていましたが、あまり話したこともありませんでした。
そんな上田に、就職先が決まったあとのゼミの打ち上げの時に突然
「新しく立ち上げた会社で会議をやっているから、一度来てみてほしい」と言われたんです。
当時はベンチャーとかまったく興味がなくて、むしろ否定的だったのですが、
たまたま時間が空いていたので、何もすることがないなら冷やかし程度に行ってみるか、
という本当に軽い気持ちで顔を出しました。
しかし、振り返ると、これが私の人生を変える、大きなきっかけだったのです。
会議といっても、オフィスも何もない時代だったので、場所は雑居ビルの中の小さなスペース。
「なんなんだこの会社は、、」と思ったことは、今でも鮮明に覚えています。
あまりに就活時代に足を運んでいたオフィスとは違い過ぎたので。
そんな中、ずるずると引き込まれる形で、私はボランティアでオトバンクを手伝うことになりました。
今だから言えますが、「失敗するベンチャー企業も勉強にはなるかな」という軽い気持ちでした。
元々オトバンクは株式会社という形ではなく、
無償で対面朗読を行うNPOを設立してはどうだろうか、それを録音コンテンツにしたらどうか、
という考えから始まっています。
しかし、NPOとしてこうしたことをやるにしても、そもそも音楽以外で「本を音声で聴く」という市場が
日本にはなかったため、コンテンツはどうしても高くなってしまいます。
そこで、目に障害を持っていたり、老眼などで本を読むのが億劫だという方にも安くコンテンツを提供できるように、
一般人も含め、多くのユーザを獲得して市場自体を創るしかない、という話になったのです。
そのためには、株式会社として事業化するということになりました。
創業者の上田は理念先行で、集まった中には業界経験を持つ専門家がひとりも居ない、という状態から始まりました。
まずは著作権と、さらに出版社さんや作家さんは
どういう考えで仕事をしているのかというのを出版社さんから勉強させていただくなかで、
ネットに関しては詳しいメンバーがいたので、その中で、書籍のインターネット上でのPRを依頼されるようになりました。
そのころから、応援して下さった、出版社の方々は、我々以上に業界の未来を見通していました。
それから2年後の2007年に、ようやく我々がやりたかった「オーディオブック」の事業を開始することが出来ました。
私のオトバンクの中での役割は創業者の考えを具体的な戦略として組み立てたり、
チームで動きやすいように仕組みを整えたりすることでした。
元々得意だったのかも知れませんが、自然にそうなりました。
要所要所で起用されているうち、自分で自覚してなかった「出来ること」「自分に合うこと」が色々と見えてきました。
何も決まっていない不確実な環境でもがいているうちに、
ついに自分のなりたい姿や目指すものが見えてきたんですね。
そこからが問題です。
ようやく見えてきたものを実現するには、当時の内定先にそのまま入社していいのかと、真剣に悩むようになりました。
誰にも相談できない問題です。
一人になって考えたいと思い、2005年の冬から2006年の春にかけての卒業直前に海外を放浪し、とことん悩んだ末、
新卒の社員としてオトバンクに入社することに決めました。
卒業式も終わり、入社一週間前のことでした。
今思い返しても本当に内定先には失礼なことをしました。
でも、これは、自分の生き方の根本に関わることなので譲るわけにはいかなかったのですよ。
素晴らしいコンテンツには人の人生を変えるチカラがある
オトバンクは、幸いにも現在業界の中では、
日本最大のオーディオブック事業者として、地位を確立することが出来るようになってきました。
現在オーディオブックは二十代~五十代の方を中心に利用していただけてますが、
本を読むのが難しい高齢の方々や、活字離れした若い世代の方々など、
コンテンツをほんとうに利用してもらいたい層の人たちに、認知が十分に行き届いているとは言い難いのが現状です。
「オーディオブック」と言われれば誰もがぱっと理解できるような、「当たり前の」ようなもの。
つまりオーディオブックのインフラ化が今の目標ですね。
また、これもひとつの目標なのですが、
私が直接聞いた範囲では、日本のコンテンツに触れて強い影響を受けた海外の人たちというのはとても多いんです。
だから、日本でも世界でも同じことですが、
人の人生をも変えてしまうような素晴らしいコンテンツがこんなにも溢れているのなら、
音声に限らずどんどん広めていけたらいいな、と考えています。
「フラットに意見が言える場」=「最強のチーム」づくり
私が一社員として働いていた時、他の会社でインターンをしていた時も、
「どうしてこれをやらなければいけないんだろう」と思うことが多々ありました。
それを考えないで、言われたとおりにやるだけだと、すごく不本意だし、飛び抜けた結果は出ないんですね。
今思うと、自分は、そう言う疑問を押し殺して就活をしていたのが、インターンで結構活躍し、人気企業に採用されても、
どこかしら不本意だったことの原因だったのです。
だから、社員には何かをやるときに「これをやるとしたら、どう考える?」ということを必ず聞くようにしています。
入社した人には言っていますが、自分が思ったことをそのままに押し殺して口に出さないのはやめてほしいんです。
わが社では社歴に関係なく意見は同じ価値を持ちます。
私や創業者が社員に怒られるというのはよくありますし、
こういうフラットな環境が、やりたいことを叶えていくには大切だと思っています。
そういう意味で、「ここはもっとこうした方がいい」、「こういうものが便利なんじゃないか」等、
新しい発想から意見をきちんと述べられる人材は、大歓迎ですね。
三カ月に一度は全員と個別に話せる機会を設けているので、その時にどういう考えを持っているか、何をしたいか。
何に興味を持っているのか、などを聞いておくんです。
それを把握しておいて、あとでプロジェクトを実行に移す際に、
そのプロジェクトを成功させるための「最強のチーム」を決めます。
そこにおいてもとにかく自由に話し合って決めるので、極端な話、私が今の立場でなくなることも十分あり得ます。
私自身が、一ボランティアから始まって、今、社長という役割をしているのも
それが「最強のチーム」をつくるには一番良いと考えているからに過ぎません。
理由は簡単です。
私は、インターンや就活の時にどうしてもぬぐい去れなかったあの不完全燃焼感を、
二度と自分は味わいたくないし、社員にも味わせたくないんですよ。