代表取締役 阿部 秀嗣


代表取締役 阿部 秀嗣

設立 1972年6月 ※ソフトウェア事業開始は1990年12月
事業内容
  • システム開発・メンテナンス
  • コンサルティング
  • 編集プロダクション
会社HP http://www.cuore.jp/

お寺で「小僧生活」を送った高校時代

私は28歳で起業しましたが、最初から社長を目指していたわけではありません。
ただ、私の父が3~4人ほどの会計事務所を経営していたので、
多少の影響は受けていたとは思います。
その父親というのが大正生まれ、軍隊経験もある厳格な人で、私が高校に上がる年齢になったとき、
「男は15歳になったら他人の飯を食ってこい」といわれ、京都の寺(比叡山延暦寺)に放り込まれました。
寺から高校に通い、頭を剃って朝晩お経を唱え、弟子として師匠の身の回りのお世話をする、
そんな生活を3年間送りました。
師匠は「千日回峰行」という命懸けの荒行の真っ最中だったので、
ものすごく厳しくいつも怒鳴られていましたし、理不尽な経験もしました。
しかしそれが、経営者としての現在に活きていると思います。

若い人は、自分を表現するのが下手だったり、
要領が悪かったりするために、誤解されてしまうことも少なくありません。
そういう時に、もう少し掘り下げてあげると、単に上手く伝わっていなくて、
ダメだと思われていたのだと分かります。
小僧だった頃に、そのようなことがたくさんあったからこそ、
社員を理解できるのだと思っています。

プログラマーとして様々な思いをしながら経験を積む

高校卒業後は専門学校に2年間通い、小さなソフト会社に就職しました。
入社当日の朝、いきなり大手電機メーカーに連れて行かれ、
何の説明もなくそこで派遣プログラマーとして働くことになったのでした。
入社式も何もなく、同期もいない、右も左も分からない状態で
私の社会人生活はスタートしました。
結果的にその会社は社長と意見が合わず4年で辞めましたが、
その後フリーを1年ほど経験したことで、いつかは起業したいと思うようになりました。

その後もう一度、独立前提で別の会社に入社しました。
起業を決めてはいたものの、
まだ若いので準備期間として働かせてほしいという希望を受け入れてくれた会社でした。
その会社も小規模なソフト会社でしたが、アットホームで居心地の良い会社でした。
ところが突然上場計画が持ち上がり、M&Aによって規模が大きくなり、
会社の雰囲気が大企業的、官僚的になっていきました。
やたらと管理やマネジメントが重視されるようになり、
プロジェクトリーダーは、進捗状況を厳しく突っ込まれたり、色々な仕事を押しつけられたりと、
どんどん窮屈になっていきました。
その会社は私の退職後には予定通り上場しましたが、
そのような状況になったこともあり、28歳の時に退職し起業したのです。

時期や環境に惑わされることなく、起業の意志を貫く

起業したのは1990年、バブル崩壊直後の時期だったので、
周囲からは「今はやめた方がいいのではないか」と引き留められました。
しかしバブル崩壊は、日本の歴史の中ではほぼ初めての出来事。
半年待てば収まるのか、1年もしたら良くなるのか、誰にも分かりません。
(結局失われた20年、30年といわれ今に至っています)
それよりも私としては、自分の年齢の方が重要だったのです。
このままでは何もせずに30歳になってしまうという危機感、それが私を起業へと突き動かしました。

私は、技術者としてシステム開発には自信がありましたが、
会社に勤めていると、技術があっても上司にいいように使われたり、
正しい評価をしてくれないこともあります。
自分達の会社が一生懸命やったのに、元請け会社の手柄になってしまい、
逆に悪いことが起きると、全て自分たち下請け会社のせいにされることもあります。
だから、自分の力が正当に評価される環境を作りたい、
自分で全て采配をして、責任も全て自分がとる働き方をしたい、
そんな思いの方が、時期云々よりも強かったといえます。

中小企業の経営者として思うこと

世界的なトレンド、技術、経済動向、政治など、全体として大きな流れを掴むことは大切ですが、
中小企業の経営においては、そういったことよりも自分たちの身近な環境の方が重要です。
例えば、中小企業の経営者というのは、定員数人の小型漁船の船長のようなものです。
晴天でも海がしけていれば漁には出られませんし、
明日は台風が来るという予報が出ていても、今日の天気がよければ漁に出かけます。

学生の就職先選びも、どの船に乗るかと考えるといいでしょう。
大企業に入るのは豪華客船に乗るのと一緒で、沈没するリスクは少なく、
至れり尽くせりのサービスが受けられます。
ただし、誰でも乗れるわけではありませんし、自分勝手に好きな場所へ行くことはできません。
一方で、定員数名の船は希望すれば誰でも乗れます。
そのかわり荷物の積み下ろしから何から、全て自分でやらなければいけない。
どんなに好天でも、ちょっとした操縦ミスでコケてしまうかもしれません。
しかし航海に必要なことは、いやでも叩き込まれますし、自分の好きな場所へ行けてスリルと冒険に満ちています。
どちらを選ぶかは、
自分が快適な環境を求めているのか、それとも1人でも生きていけるスキルを身につけたいのか、
ということですね。

世の中の役に立つものを、自分たちの力で

会社の方向性としては、自社の商品を出していくことに力を入れていきます。
それが本当のビジネスだと思いますし、その方向性で楽しくやっていける
会社でありたいですね。
例えば、当社で出している介護記録システム「RacNote(ラクノート)」。
これは地元の特養のシステム作りがきっかけで生まれたもので、
「食事」「入浴」「排泄」の3大介護の記録を、インターネットのブラウザで
管理できるシステムです。
当社ではこのシステムのソースを一般公開することで、ブランドの知名度を上げて
ユーザーを増やすとともに、世の中の役に立ちたいと考えています。
私たちが目指しているのは、世の中に必要とされ役に立っている商品の作り手になることです。
いくら知名度が高くて儲かる商品でも、世の中にとってなくてもよいものは当社では作りません。

学生へのメッセージ

最初から「失敗してもOK」とは言いませんが、失敗することも勉強ではあります。
何かにチャレンジして、自分なりに工夫したけれど失敗するのは、
自分にとって勉強になるのでそれは良い経験となるのです。
何も対処をせずに、延ばし延ばしにしているうちに失敗に終わるのはダメ。

人生は一度だけです。
だから積極的に、楽しんでワクワクできる環境に自分を置いてほしいですね。
人生において追いつめられて困るようなことは、そんなに起こらないですよ。
不安ばかりを抱かないで、自分が楽しく充実して過ごせる環境を作り出す、
そんな気構えを持って頑張ってください。