代表取締役 酒井 悦一

株式会社カツミ 代表取締役 酒井 悦一

代表取締役 酒井 悦一

株式会社カツミ
設立 昭和22年8月30日
事業内容
  • 鉄道模型:車両・レール・制御装置・
    鉄道付帯物等の 企画、設計、製造、販売
  • 展示モデル:博物館等の展示モデル・
    ジオラマレイアウト特注品等の企画、 設計、施工
  • 電子制御: 電子制御基盤の設計、製作

子どもの頃から体育会系~ラグビーで培った人間力。

東京生まれの東京育ち。慶応義塾大学法学部卒業。
学生時代は体育会蹴球部(ラグビー部)に所属していました。
ラグビーは附属校入学後 中学から高校、大学まで一貫して続けたスポーツです。
ラグビーとの出会いは単純で、楕円形のボールが珍しく感じ、隣の席の友達からの勧誘でした。
走ることや泥んこ遊びは元々嫌いじゃなかったから、すぐに好きになりました。
学生時代ラグビーというスポーツに情熱を傾けて得たものが、人生の基盤の一つになっていると思います。
今もOB会の理事を拝命し、学生の現場支援、就職のフォローアップなどのOB会活動に参加しています。
また、慶應体育会OB会の常任理事も重任し、福沢先生の「文武両道」
小泉先生の「練習は不可能を可能にする」などの精神を学生諸君に伝承する努力をしています。

銀行へ就職~そして戻ってくることに。

会社は父が起業し、子どもの頃から比較的恵まれた環境で育ちました。
男が私一人だったためか、会社を承継するという流れは自然とありました。
模型には親しみもあり高校の頃にはこの会社でアルバイトをしたりしたこともありました。
でも就職は、反発して第一勧業銀行に入りました。ところが、三年後 父が急に体を壊し
た事を契機に銀行を退職してこの会社に入社しました。ちょうど銀行の仕事が面白く
なってきた時期でしたので、心残りでしたね。
銀行での経験は、システム創りや・管理力の勉強になりました。
その時勉強させて頂いたので、今でもメインバンクはみずほ銀行です。

私の就職活動は、小松製作所、味の素、神戸製鋼、第一勧業銀行の方々にお目に掛かりました。
余り脈略があるとはいえませんね。その中で銀行からすぐに内定を頂きましたので決めました。
でも今考えると銀行で良かったと思っています。人間力をつけてくれたのは、
スポーツ精神やその仲間であり、銀行だと思います。

社長に就任~新幹線で行こう!

昭和56年に専務となり、経営にタッチするようになりました。
そして私が39歳の時に父が亡くなり、平成元年から社長を引き継ぎました。
父は模型業界の中でも結構な権威のある創業経営者で、その存在は例えるなら
大型の蒸気機関車でした。しかし、偉大な創業者が牽引する列車は残念ながら
推進力の無い客車列車でした。いわば蒸気機関車的経営と言えるでしょう。
客車列車に対して新幹線は全車両にモーターが付いた列車です。
私は新幹線のように電車的経営をしようと考えました。社長に就任するときに、
「たまたま私はリーダーとして運転席に座るけれど、牽引力・推進力は
君たち一人ひとりが自覚をもってやっていって欲しい」と、話しました。
人から言われたことばかりやっていたら、面白く無いですよね。
自分で考えて自分で工夫して自分の道を切り開いていってもらいたいと思っています。

私は、今の会社の現状を売上、収益まで月ベースで社員に公表しています。
例えば、あと1%収益をあげられると、みんなでこれだけのボーナスを分かち合える。
といった具合です。製造原価の圧縮で少しでもお客様に満足していただける価格で販売する。
どういう作り方や売り方をすればよいかを考えることが大切です。
それぞれの部門が当たり前のことを当たり前に実践することで、
1%ずつ積み上げていけばいいんです。分かりやすいじゃないですか。
皆んなが考えて皆んなが工夫して会社が運営できるようにしていきたい。
まだまだ力を出せていないという人も中にはいますが、社員全体の意識が
高まってきていると感じます。

強みと課題~匠のこだわりをどう工業化していくか

我が社のこのマーケットの中でのポジションは、「こだわりの世界」。
扱っている機関車は全て金属でできています。技法としてはハンダ付けという
古典的な方法で作っています。金型から組立まで中国のメーカーで作っているところも
何社かありますが、ウチの永遠の企業テーマは「ブラス(真鍮)でつくろう。ハンドメイドで頑張ろう。
メイドインジャパンを貫こう。」をキーワードにした「価格にあった価値あるものづくり」です。

ウチの製品は高いんですよ。4両セットで25万円、6両編成で30万円などです。
高額な価格に見合った高い価値をお客様が認めて買っていただく事が大切だと思っています。
お客様からのご満足の声を目標に頑張っています。

匠のこだわりでつくりだすものは工芸品。でも工芸品はなかなかビジネスになりません。
工芸品を工業品にするのがリーダーの役目だろうと考えています。
ハンドメイドがウチの売りですから、匠の心を絶対忘れちゃいけない。
匠の力を活かした工芸品を工業化するのはどうしたらいいのかを工夫していく。
そこで収益を上げていくそこが重要なのです。

次の世代へ引き継ぐ~トップダウンの時代は終わった。

今、私は60歳ですが、65歳までの5年間はバトンタッチのリレーゾーンだと思っています。
次世代にどううまく繋いでいくか。そのためにどのようなシステム作りをするか?
というのが、わが社の将来を左右する大切な私の仕事なのです。
そこで、40歳の若いリーダーをトップにした、経営企画室をつくりました。
メンバーはみな20代、30代。経営に対してものを言える組織で、どうしたらこの会社
が良くなるのかを若い力で考てもらってます。月に一回ミーティングをして、
商品の企画、販売のチャネルから人事を含めて提案してもらいます。結果を経営に
役立てられれば、若い人も経営に参画することに成長してくれる事を期待しています。

トップダウンの時代は終わったと考えています。ボトムアップの起案事項を実行して
成果を出すことが大事なのです。
ウチは会社内部の経営メカニズムが公開されていますので、何を考え何を実行すれば、
お客様のためになり、会社のためになり、如いては自分のためになるは判断できるはずです。

社員はみな模型好き~ローテーション人事で風通しよく!

社員ですが、父の時代、中卒の集団就職で職人になったという人や、
ヘッドハンティングで営業マンになった人など様々です。
最近は、インターネットや雑誌などで求人しますが、模型好きという人が多いですね。
待遇よりも好きな仕事をしたいという人たちが多いようです。
新卒はなかなか定期的には採用できませんが、欠員が出た時や部署を強化したい
ときに求人しています。
応募者は模型好きで、わが社の社名を知っているという方が多いですね。
先日、ネットで求人したら、求人誌の10倍の100人を超える応募がありました。
10人に面接し1人を採用し、今は販売を担当して頑張っています。
販売する人も模型好きな人が多いです。好きでないとお客様に良さが伝わらないですから。
作り手の気持ちを吸収して、お客様に伝わるように販売しないといけないんです。

社員は様々な仕事を経験しています。現在生産管理の人は「作り手」を経験して、
販売を3年経験し、また製造に管理業務の為に戻ってきました。
お客様の「こだわり」の箇所を販売の経験から知りつくしている人が、
今の生産管理業務行っています。
お客様の旬なこだわり・ニーズを「作り手」に正確に伝えられるので、
風通りが良くなって、最近の新製はとても評判がいいです。

模型ビジネスの原点、そして未来。

日本での鉄道模型の歴史は古く、昭和7年ごろからとされています。
戦後、進駐軍の将校さんのお土産として持ち帰ったアメリカ型の機関車が評判になり、
本格的なアメリカ向け輸出が始まりました。輸出産業として技術を磨き、
日本国内の経済が安定してきた時代に、日本型の車両も作り始めました。
アメリカはプライスマーケットなので、中国・韓国の安い製品に完全に煽られて
わが社は平成の初めぐらいから輸出はやっていません。今は、国内マーケットが
成熟化して生産量も国内市場にでマッチしています。

このビジネス自体は絶対無くならないと思っています。
60歳代の昔からのお客様もいるし、イベントでは高校生も興味を持ってくれています。
「匠のハンダ付け」をやってみたいと思っているようです。ウチはピラミッドの頂点の商品
を作っていますので、まだ高校生は手に入れるのは難しいとは思いますが、
いずれ目標にしてくれる商品になりうると思っています。ホビーの世界ですから、
ブーム的に急激に需要が上がるのはないですが、急激に冷えるものでもありません。
きちっとした嘘のない商品を作っていけば、お客様はついてきてくれると思っています。

別分野への野心とチャレンジ!

一方、新しいビジネスにチャレンジしたいという野心もあります。
別の分野で本業をしのぐ成功を収めている会社もたくさんありますね。
日本総研の方にその話をしたら、「新リーダーに会社を引継ぎ、そして新ビジネスも立案
しろというのは無理です、新しい柱は細くても現社長が作ってから引退してください」と言われました(笑)。
今のビジネスは安定はしていますが、伸び率としてはそれほど期待できるものでもありません。
頑張ってくれている社員のためにも、何か一つやって、リレーゾーンの中に入れていこうと思っています。

学生へのメッセージ

今の学生ってみな優等生だと思います。いい子が多い。もっと「やんちゃ」で元気があっていい。
私が、中学生の時に見た大学生は、お兄ちゃんというよりは、おじちゃんでした。
無骨豪傑でしたが、芯があったと思います。

今の学生は当たりはいいのですが、奥がない。情報が沢山あるからか、
情報武装して中身がなくなってしまったのか、情報が多すぎて逆に画一化して
自分を見失ったのでしょうか。マニュアル通り動いちゃってるのかな。
自分を大事にしてアピールできるような、何かにこだわりを持ち・・それが仮に
間違っていてもいいので、一本筋が通った考え方を持っている方がいいと思います。
素直なことはいいことなので、大事にしてほしいですが・・。
一つのことに打ち込んで何かを得て、いい学生生活を送ってもらいたいですね。
人生に一度しかない、学生の特権ですからね!