代表取締役社長 大川 哲郎

株式会社大川印刷 代表取締役社長 大川 哲郎

代表取締役社長 大川 哲郎

株式会社大川印刷
設立 2011年4月8日
事業内容
  • 営業(製薬メーカー、食品メーカー、NPO・NGO)
  • 企画・デザイン/制作・印刷・製本
  • 医療特化(GMP(Good Manufacturing Practices
     =医薬品の製造および品質管理に関する基準に沿った品質管理と安定した製品提供)
  • 自社製品(エコカレンダー、森がよろこぶカレンダー)
会社HP http://www.ohkawa-inc.co.jp/

100年企業の悪い点が見えた時期

創業130年を迎える我が社において、私は6代目の社長です。
先代社長の父親は、手術の失敗によって私が19歳の時に急死してしまいました。
突然だったので、会社は混乱しましたし、専業主婦の母は急遽社長に就任して
本当に大変だったと思います。

私は3年間、他社で修業をさせてもらったので自社の良い点、悪い点が分かりました。
100年企業は、伝統が受け継がれていたり、社員同士の仲は良いのですが、
その反面、なあなあになってしまいがちです。
それと、当時の我が社に関しては、規律が乱れている状態でもありました。

社内に怠惰な雰囲気があったのは、印刷業界の状況も関係していたかもしれません。
昔は印刷業界も儲かっていて、注文が自動的に入ってくるような、
苦労しなくても仕事があるという状況でした。

改善のためにまずは自分が変わった

そこで24歳から28歳頃に改善に乗り出しました。
しかし改善を阻止されたり、「あんたにはついていけない」と
辞めていった役員もいました。

この時期に学んだのは、「他者は変えられないが自分は変えられる」ということ。
他者を変えるのは非常に難しい。
誰だって、自分がやっていることを変えろと言われても、
なかなか変えられるものではありません。

だったら自分を先に変えようと思いました。
ただしこれは、言うのは簡単ですが、実はすごく難しい。
自分が変わったことを認めてくれる人が、一人また一人と増えていき、
やっと周りが変わります。

自分の限界を打破するには

私は苦しい時やつらい時には、次のように考えてきました。

成果の限界が、なぜ起きてしまうのかというと、行動の限界を生じているから。
行動の限界が、なぜ起きてしまうのかというと、思考の限界を生じているから。
そして思考の限界は、情報の限界によって生じる。
その情報の限界は、興味や関心の限界から生じる。

これに当てはめて考えると、自分はどの段階であるかが分かります。
思考が停止しているなら情報を入れます。
情報を入れることができなくなっているなら、
興味や関心が薄れているのでは、と考えます。
関心を持てなくなっているなら、関心が生じて面白くなるところまで
突っ込んでいきましょう。

学生さんも、壁にぶちあたった時にはこの考え方を参考にしてほしいと思います。

改善活動の中で生まれた「大川スピリット」

それでもやはり、なかなか上手くいきませんでした。
コンサルタントのアドバイスで様々な活動もしましたが、ことごとく失敗しましたね。
その当時、私は社長室室長でしたが、周囲には
「室長が決めたからやる」という雰囲気がありました。

しかしバブルもはじけて、売り上げも落ちてきて、
社内の雰囲気が少しずつ変わってきたんです。
このままではマズイのではないか、
室長の言うことも、まんざらでもないかもしれない、と。

そこで社員の有志4人と当時の社長だった母と私で、今は何が必要かを考え始めたんです。
そこで生まれたのが「大川スピリット」でした。
当時の活動が全て失敗した中で、唯一、生き残って今も受け継がれているものです。
毎月1回の全体朝礼や、週初めの朝礼で唱和しています。

私が今も続けている改善活動の中には面白いものがあります。
それは「履き物を揃えること」です。

業界の先輩の話にヒントを得たのですが、
これを知った20代後半の時は、「こんなことで何も変わらないのではないか」
と考えていました。しかしそれから10年以上の年月が経った今、
その効果は表れ、履物同様、社員同士の気持ちも揃ってきていると感じています。

発生責任は問わない、大川の文

それと、ずっと続けているのが、クレームのトップ即時報告です。
クレームの「発生責任」は問わずに「報告責任」を問います。
もちろん報告をしてもらうからには、社長も動きます。
きちんと謝罪に行きますし、すぐに行けないようであれば
まずは電話ででもお詫びをします。

「報告責任は問えど、発生責任は問わず」
報告をすることで皆で情報を共有するのが目的です。
良いサービスを提供するための条件は情報の共有であるからです。

社会に役立つ企業を目指して

もう一つ、私が取り組み続けている活動が
「CSR(Corporate Social Responsibility)=企業の社会責任」、です。
本業を通じたCSRを推進しています。
印刷を通して社会の役に立つことができないか、
社会問題の解決の糸口になることはできないか、
そのような取り組みです。

CSRについて考え始めたのは、
横浜青年会議所で「企業の社会貢献」について学んだことからでした。
また、ユニバーサルデザインの服飾デザイナーの井崎孝映さんとの出会いも
私にとってのターニングポイントでした。
井崎さんは「洋服を通じて社会を変えたい」と考え、
障がいを持っている人でも着やすく、そして
ファッショナブルな洋服を作っていました。

彼女の言葉を聞いて、その時の自分が
「手段の目的化」に陥っていることに気づいたのです。
当時はバブルが崩壊して売り上げが落ちていたこともあり、
自分の仕事は「印刷物の受注=売上の確保」だと思ってしまっていました。

しかし、我々のすべきことは社会をより良いものに変えていくことであり、
その手段の一つとして印刷というビジネスがある、と。
印刷は、ありとあらゆる業界に入り込んでいるという、
めずらしい業種で、たくさんの業界と接点を持っています。
だからこそ、様々な業界における課題解決のプロジェクトを
立ち上げることも可能と言えるのです。

このことがきっかけで、2005年には
「ソーシャルプリンティングカンパニー」というビジョンを掲げました。
環境問題、高齢化、医療過誤などの様々な社会問題に対して
印刷を通じて解決していくというビジョンです。

自分の使命を問い続けよう

「手段の目的化」という過ちは、油断しているとすぐに起きると
学生さんにも伝えたいですね。
就職活動をしていると、就職することが目的になってしまいがちですが、
それは本当の目的ではありません。
就職も内定も本当は「目的」ではなく「手段」です。
すなわちその仕事をすることによって何をなし遂げたいのか、
その仕事によって、どのように世の中をより良くしたいのか、
それを考えることが大事なのです。

これを、ミッションや使命と表現することがありますが、
使命とはそんなに生易しいものではありません。
「命を使う」と書くのですから。
若いうちは、何が使命か分からなくてもいいと思います。
大事なのは、自分の人生における使命とは何かを問い続ける、
そして行動をし続けること。
それによって見えてくるものがあるはずです。

私の好きな言葉に、吉田松陰のものがあります。

夢なき者に理想なし
理想なき者に計画なし
計画なき者に実行なし
実行なき者に成功なし
故に、夢なき者に成功なし

「これだよなあ」と、いつも思います。
学生さんにも学んでほしい言葉です。

学生へのメッセージ

私は今の学生さん達に期待しています。
東日本大震災が起きたことで、
何かをしなければと感じている学生が増えていると思います。
しかし何をすべきなのか分からない学生もいることでしょう。
それならそれで、自分ができることをやればいいんのだと思います。
仕事としては難しいかもしれませんが、
被災地の復興に必要なものを理解したり、
被災地に行かなくても、経済の活性化を通じて
色々な復興を担っていくことも、とても大事なことです。

仮に復興までに10年かかったとしたら、
その頃には、今の学生の皆さんは30歳を超えて
まさに働き盛りの世代になっています。
復興を担う立場になった時のために、
今できることに積極果敢にチャレンジして欲しいですね。