代表取締役 裵 英洙

代表取締役 裵 英洙

設立 2009年3月
事業内容
    • 医療コンサルティング
会社HP http://www.medixfirm.com/

父を救いたいと医師を目指す

医師になりたいと思い始めたのは中学生の頃でした。
そう思い始めたきっかけは、私は日本で生まれ育ちながら、日本国籍でなかったからです。
在日外国人が就職で差別される時代があり、
在日韓国人の親戚たちは皆が苦労していました。
父からは
「弁護士でも大工でもいい。手に職をつけて、技術が評価される職業を選びなさい」
と言われました。

父が挙げた職業の中から、私はすぐに「医師になりたい」と思いました。
いつか父の病気を治したいという想いからでした。
父はかつて、寿司屋や定食屋を経営していましたが、
体調を崩し、私の物心がついたころは寝たきりになっていました。
医師になって父を救いたいという想いは強かったですね。

1998年に大学を卒業し、無事に医師になり、
10年ほど外科医・病理医として公立病院に勤務しました。

病院の治療をすべくMBAを取得

医療現場で働き始めて6~7年目から、病院経営に問題意識を持つようになりました。
私がいた病院では、医師や看護師たちは昼も夜もないくらい必死で働いているのに、
病院の赤字がいっこうになくならないのです。
自分よりも若い医師や看護師が激務で体調を崩し、辞めていくと、
残った職員たちはさらに過重労働を強いられました。
過酷な労働環境、上がらないモチベーション、
増える離職者、人員不足からくるさらなる労働環境の悪化―悪循環を止めないと、
と思いました。

なぜ現場がこんなに頑張っているのに、病院経営が赤字なのか。
うまく歯車が合っていないんですね。
この歯車を合わせるには、病院経営を何とかしなくてはならない。
そう思ったんです。

そこで病院を辞めて慶應ビジネススクールに入り、経営の勉強をしました。
MBAの同期とともに、在学中の2009年3月に起業しました。

現場主義の医療コンサルを起業

実は、病院経営のコンサルティング会社というのは国内でもたくさんあります。
しかし大半が、財務管理だけだったり、物品管理しかチェックしなかったりするんですね。
病院経営ではこれらは無視できない部分ではありますが、
肝心なのは医療者たちが働きやすいように職場を改善するところなんです。
そこに着目して、ハンズオンで医療現場に入りながら改善していくところが、
他のコンサルティング会社と違うところです。

そもそも医療という分野自体がとても難しく、
患者も医療機器メーカーも良くわからない部分があります。
下手をすれば、同じ病院で働いているにもかかわらず、
隣で働いている人の業務内容が良くわからないこともあるんです。
副社長の小林はもともと記者でした。
物事を中立的、客観的に見る能力に長けているんです。
これはなかなか真似できません。
医師は難しい言葉を難しいままに伝えますが、
彼は難しいことを非常にシンプルにわかりやすく伝えてくれます。
なので役割としては私がインプットで彼がアウトプットですね。

医療の情報格差をなくしていきたい、というのが当社の理念です。
構想の段階では100種類程のビジネスプランを作りました。
例えば医療訴訟が起こった際に、医学的見地からのアドバイスをするというものもありました。
それらすべてが、医療の情報格差に関わるものだったんです。

医療の情報格差解消へ就業施設を設置

今、注力しているのが、医師や医療機器メーカー、介護士など、
ヘルスケアビジネスに限定した就業施設「東京ヘルスケアビレッジ」の運営です。
例えば医師は、ヘルスケアに関して様々なビジネスアイディアを持っています。
医師が、医療機器メーカーの営業マンや、医療専門の投資家と結びつくことで、
新たなビジネスが生まれるかもしれません。
そういった場を創造したいと思い、東新宿で施設をオープンしました。
ヘルスケア業界の人たちが集まって、ワイワイと交流できれば、
産業振興につながったり、何か新たな医療革命が起こるかもしれないと思っています。
インキュベーションセンターとしての機能もあるので、入居者たちが起業したいと言えば、
それも支援していきますよ。

私たちのターゲットは大きく3つあります。
1つは患者さん、もう1つは医療機器メーカーなどの企業。
そして病院です。
自治体病院の約7割、公立病院の3、4割が赤字だと言われています。
また、緊急性がないのに救急車を呼んでしまったり、
昼間は仕事で病院に行けないから夜間診療に来る患者さんが問題になっています。
例えば、我々の経営改善によって病院の赤字が縮小し、
患者さんへの啓発活動によってコンビニ受診が減ったとしましょう。
すると、日本の医療費はぐんと下がります。
現在、国内の医療費総額は約38.5兆円ありますから、
1%改善しただけで3800億円以上のインパクトがあるわけです。
このように、社会にインパクトがあって、皆がハッピーになることに興味があるんです。

楽しくも社会に影響のある仕事をしたい

起業するよりも、サラリーマン・OLで生きていく方が、
給与も安定しているし、自由になる時間も多いでしょうね。
起業すると、給与は下がるし自由時間はなくなります。
社長という肩書が手に入ったとしても、平社員より取引先に頭を下げることの方が多いです。
ただ、社会問題を解決したいという意気込みがあるのなら、
絶対に起業した方がいいです。
なんせ、自分がやりたいことのために100%の情熱をつぎ込めるんだから。
我々の仕事に対する軸は2つだけです。
1つは仕事が楽しいか楽しくないか。
例えば部活の練習ってつらいけど、
「試合で勝つ」という目標があるから、つらいことも乗り越えられるでしょ?
仕事も同じ。
自分が「この社会問題はおかしい!」と問題意識を感じている分野で働いていれば、
お客様に頭を下げるのも徹夜での仕事も、それほどつらくは感じません。
もう1つの軸は、社会にインパクトがあるかないか。
お金がほしいなら、ずっと医師でいればいいんですよ。
あるいは、外資系のコンサルタントで年収数千万円もらってもいいでしょう。
ただ、どれだけ高い報酬でも、誰かの犠牲の上に成り立つ仕組みには加担したくない。
周りが腹を空かせている中で、
自分だけがごちそうを食べていて本当に幸せかと言われれば、
絶対にそうじゃない。
くどいようですが、自分も皆もハッピーになる仕組みを作りたいんです。

学生へ「退屈よりも楽しくつらい人生を」

「将来、起業したい」と言っている人は、結構います。
私のMBAの同期にもたくさんいました。
ただ残念ながら、99%は「起業準備中」のまま、一生が終わります。
「結婚して(子どもが)いなかったら起業できたのに」
「あの時、お金さえあれば、今頃は社長だった」
「皆が資金を出しててくれると言っていた。ただ、不況でタイミングが合わなかった」。
そんな言い訳を山ほど聞きました。
私が起業した時、ちょうど子どもが生まれました。
ビジネススクールを出たばかりでお金がなく、
しかもリーマンショックで久々の大不況が追い打ちをかけました。
でも起業しかないと思ったんですね。
このタイミングでないと、今ある情熱をパワーに変えられないと思ったからです。
実は、起業に最適なタイミングなんてないと思いますよ。
やるなら、一日でも早い方がいいと思います。
「○年サラリーマンやったら起業できる」というものでもないです。
起業した後の1年は、社会人の10年分の勉強ができますから。
自分の利益だけを求めていたら、創業のつらい時期は乗り越えられなかったと思います。
「日本の医療を何とかしたい!」という思いが、私を支えてくれました。
「楽しい」の対義語は「つらい」ではありません。
「つまらない」でしょうね。
退屈な日常を送るくらいなら、つらくも楽しい人生を選んでほしいと思っています。