代表取締役 佐藤 太一

株式会社ゼニス 代表取締役 佐藤 太一

代表取締役 佐藤 太一

株式会社ゼニス
設立 1999年2月26日
事業内容
  • TV番組、CM、パッケージビデオなどの映像企画・制作業務
  • ノンリニアポストプロダクション業務
  • CG制作、デザインワーク、DVDオーサリング業務
  • イベント企画制作業務
  • 制作スタッフの派遣業務
会社HP http://www.zenith.ne.jp/

18歳、独り立ちを夢見て

大学時代はとにかくバイト三昧の日々でした。
というのも、母の実家が商売をしていたからか、
私は「大学生にもなったら自分の力で生きて行こう」と考えていたんです。
最初は進学せず手に職をつけようとも考えていたくらいです。
そこで、大学は親に入学金だけ借りましたが、学費その他は全て自分で出すことにしました。
ところがこれが想像以上に大変で…結局、ひたすらバイトの大学生活になりました。
でも、私にとってそれは当然のこと。多分、元々独立志向が非常に強かったんだと思います。

バブルの足音と「かたち」が見える仕事へのあこがれ

大学を卒業し、最初に就職したのは金融関係です。債権や証券、株式などを取り扱っていました。
入社時期はちょうどバブルの直前で、入社後にバブルが発生し、一気に成果を出すことができました。
でも、どうも満足できない。
金融業というのは基本は数字の世界で人との接点もあまりなく、
機密事項も多いため、大きな成果を出してもあまり声高に言うことができないのです。
だからどんなに伸びてもそれを友人などに話すことができなくてもどかしいんですね。
話したいのに話せない。一方、友人には建築業界など「成果が『かたち』として残る、
見える」仕事をしている人がいました。彼らの話を聞いては、「ものづくりの仕事がしたい」
と思うようになっていったのです。

その後、コンサルティング会社を立ち上げつつ、あれこれと色々な業種に関わっていきました。
その中でピンと来たのが、当時技術革新が始まっていた映像編集業界だったんです。

カラオケブームから始まったPV制作の道

たまたま、当時の会社の隣に私の後輩が勤める映像制作会社がありました。
当時はちょうどレーザーカラオケが出始めたころ、いわゆるカラオケブームの時代です。
レーザーディスクが開発されたことにより、それまでは静止画だったカラオケが動画になり、
ブームに火がつきました。
また、当時のカラオケの映像は今よりももっと本人出演の物が多く、
PVに近い作りこみを求められるケースが多々ありました。
さらに、パソコンによる映像編集が可能になったのもこの時期。
技術の進歩と需要がちょうど重なり、動画編集の需要が一気に増えたのです。
とはいえ、今のようにみんながパソコンを持っているわけではありません。
そこで、編集用のパソコンや作業場のレンタル業、
そしてPV専門の制作サポート業を行うことにしました。
これが今の業務の始まりです。

最初はサポートが中心だったのですが、4年目ぐらいから制作にも力をいれるようになりました。
実は、社員の中にかつてTVでバラエティを作っていた演出家がいたのです。
最初は映像制作の仕事は彼だけが受けていたのですが、
部署化して本格的に取り組むようにしました。すると、そちらの方にもたくさんの依頼を
いただくようになりました。今では7,8割の仕事が制作になっています。

「見ちゃった」の魅力と「全力坂」

制作の仕事が多くなってきたところで、あるTV番組の制作を請け負うことになりました。
それは2分半ほどの短い番組で、宣伝を上手におりまぜた
いわゆるインフォマーシャルの番組です。
放映されるのは深夜、それもたったの2分程度。
それならば、インパクトよりも絵と音で目を止めたいと考えました。
そして、アイデアを求めて深夜番組をチェックしたときに、
深夜番組のある特徴に気づいたのです。
それは『生っぽさ』。例えるなら視聴者に「見ちゃった」と思わせる作りです。
深夜ドラマやアニメ、スポーツ等色々な番組がありますが、深夜帯の番組は特に
『生っぽさ』を重視して作られているように感じました。
では、2分の番組で生っぽさを出すにはどんな題材を使えばいいか?
そこで注目したのが『坂』です。

坂というのは大半が江戸~明治のころに作られたものです。
簡単には変わらないですし、今のように道路に名前がつく前は坂が
重要な目印だったという背景もあります。
つまり、坂そのものに年季が入っていて、情緒があるんです。
坂を使ってどんな番組を作れるか、作家さんとあれこれ打ち合わせをしていました。
そのとき、本当に偶然なのですが、リクルートスーツを着て会社の近くにある
宮益坂を全力疾走する女の子が目に入ったんです。
「これだ!」と思いました。
このアイデアを元に作ったのが『全力坂』という番組です。
おかげさまでまもなく1000回を迎える息の長い番組になりました。

見る人が全てを決める

実は『全力坂』は番組自体のメッセージやコンセプトをあえて決めていません。
なぜなら、どんなに私たちが伝えたい事を詰め込んだとしても、
最後は「受け手がどう感じるかが全て」だからです。
制作をしていてつくづく感じますが、制作側がどんなに思いを込めても
ポリシーを持ってもこだわっても、最後は「見ている人」の判断が全てです。
だからこそ、「私たちの」コンセプトというものを番組に強く反映させる必要はないと考えています。

私たちが考えることは私たちの映像を作ることではなく、
広告を出してくださる企業や後押ししてくれる方々の思いをいかに映像化するかです。
もちろん、面白いものを作りたいという思いはありますし、制作には情熱を込めています。
しかし、現実に『誰が見ても面白いもの』は存在しませんし、自分たちの考えは至らない所が多い。
だからこそ、協力してくれる方、後押ししてくれる方の思いをいかに表現するかにフォーカスしています。

自己主張と俯瞰目線

この業界には「頭の中を見てみたい」と思うような一風変わった人がたくさんいます。
むしろ、そういう人こそが求められています。こちらが考えや反応を
読めるような人が作ったものと比べて圧倒的に面白いものができます。
ただ、面白ければなんでもいいというわけではありません。
面白い経験だけを重ねることは不可能ですし、それだけでは経験を活かすことはできません。
想像できないような発想を持っているけれど、やるべきことはやる、
そして俯瞰の目を持つことが求められます。

学生さんに言いたいのは「どう見てくれるかな」ではなく
「自分をこう見てほしい」「自分はこれが好きだ!」という気持ちで就職に望むこと。
言い換えれば、自分の言葉、自分の表現を大事にしてもらいたい。
先日かなり大規模な面接を行いましたが、ほとんどの人の言葉が私に『刺さって』きませんでした。
「学生時代はこんなことをしていました」「サークルの代表としてみんなをまとめて」というような、
優等生的なことを言う子ばかりでした。そういった要素が求められる業界もあると思いますが、
私たちが見るのは「どんなことをおもしろがっているか」
「面白いと思ったものに対しちゃんと動けているか」です。

例えば「私は飲みに行ったら知らない人相手でも三時間飽きさせない自信があります」とか、
「映像編集が好きでこんな作品を作りました」とか「映像は編集できないので
写真を加工してみました」とか、とにかく「何をするか」を見ます。
これは決して専門学校に行けということではありません。専門学校の卒業制作は卒論と変わりません。
あくまでも「好きで作ったもの」、言い換えれば「作品を作るぐらいの情熱」を見せてほしい。
自分で作った作品は実力、内面含めてその時点の『自分』が全て出ます。足りないところもハッキリします。
でも、完璧を求めたりウケを狙った作品より、そちらの方がずっと面白いんです。
どんどん自分を表現していってほしいですね。